長期臥床や宇宙滞在では、抗重力筋に萎縮が起こり、運動能力が低下する。一方、地上で正常筋を用いて運動すると、心循環・体温調節系の働きにより、交感神経活動の増加、発汗による熱放散などが起こり、循環動態と深部体温が適切に調節される。長期臥床や宇宙滞在では、心循環・体温調節系にも変化が起こることが判明してきたが、萎縮筋を用いた運動時に、心循環・体温調節系が正常に応答するかどうかは不明である。 頭を6°下げて長期臥床するhead-down bed rest (HDBR)法は、心循環・体温調節系と筋骨格系に宇宙環境と同様な変化を引き起こすことが知られている、宇宙環境の模擬法である。健康な学生12名を対象として、14日間のHDBR実験を実施した。HDBRの開始10日前および終了直後に、足関節底屈運動試験(最大随意筋力の80%の強度、2分間)と掌握試験(を最大随意筋力の30%の強度、2分間)を行った。また、42℃の水を麻酔用ウォーターブランケットに循環させる方法で、1時間の暑熱負荷試験を行った。運動負荷と暑熱負荷時に、筋交感神経活動(マイクロニューログラフィー法で測定)、心拍数(胸部誘導の心電図)、血圧、一回拍出量と心拍出量(Portapres Model 2)などの心循環系パラメータと、末梢皮膚血流量(レーザー・ドップラー法)、発汗波(カプセル換気法)、皮膚温と鼓膜温(サーミスタ法)などの体温調節系パラメータを測定した。 実験の結果、以下の新しい知見を得た。1)HDBR後、足関節底屈運動最大随意筋力は13%低下したが、この萎縮筋による運動時の筋交感神経活動の増加反応は、HDBR前に比べて減弱する。2)萎縮しなかった上肢を用いた掌握運動に対する筋交感神経活動の増加反応は変化しない。3)運動時の深部体温増加は増強する。4)運動時の発汗応答および皮膚血管拡張反応は減弱する。4)暑熱負荷時の発汗応答および皮膚血管拡張反応は減弱する。本研究により、長期臥床による萎縮筋を用いた運動では、心循環・体温調節系の応答が減弱することが判明した。
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