研究概要 |
デイファレンシァルデイスプレイ法を用いて新たに得られたものおよび既に報告されているものを含むマウスの海馬におけるLTP関連遺伝子十数種について、まずRNAプローブを作成した。それらを用いて、恒常暗の条件下で飼育したマウスに対して主観的暗期(夜)に光を30分間照射後採取した脳組織を用いてin situハイブリダイゼーションを行った。光照射無しの場合と比較して、視交叉上核(SCN)での発現誘導が見られるか否かを検索した結果、未知の遺伝子を含むいくつかの遺伝子で著明に発現が誘導された。その内、既知の遺伝子の一つで、強い発現誘導が見られたArc/Arg3.1について詳しい解析を行った。 1)mRNAレベルの解析 Arc mRNAはDD、LD条件下で共に発現が見られなかったが、CT16における30分の光照射によって強い発現の誘導が見られた。発現は視交叉上核の腹外側部に見られ、2時間後にはほぼ消失した。またCT0,4,8では光照射による発現誘導は見られなかったがCT12,16,20では強い発現誘導が見られた。中でもCT16における発現誘導が最も強いことが明らかになった。 2)蛋白レベルの解析 東京都立神経研の山形らより供与されたARCに対する抗体を用いて30分間光照射後のArc蛋白の発現誘導を調べた。CT16においてARC蛋白は光照射開始後1時間で発現誘導され、5時間後にはほぼ消失した。ARC蛋白はSCN神経細胞の細胞質や樹状突起だけでなく、核内にも存在した。 以上の結果より、Arcは電気刺激時の海馬におけると同様、光照射時のSCNにおいてもIEGであることが示された。また、これまで光照射時のSCNにおけるIEGとして知られているc-fos, jun-B, NGFI-Aなどと異なり、ARC蛋白は細胞質と突起にも存在することが明らかになった。今後SCNでの発現誘導が見られた他の遺伝子についても解析を進める。
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