インシュリン様成長因子-1(IGF-I)のマウス生後発達期における、小脳登上線維-プルキンエ細胞シナプスの発達への影響と時期特異性を調べるため、先ず、ethylene-vinyl acetate copolymer(Elvax)を用いた局所的慢性投与法を確立した。生後8日目よりElvaxによりIGF-Iを小脳皮質に慢性的に投与されたマウスは、正常個体では登上線維シナプスの発達形成が完了している生後24日以降まで、生存可能であった。そこで、小脳のスライス標本を作製し、ホールセルパッチクランプ法でプルキンエ細胞から電気記録を行った。そして、登上線維シナプスの興奮性シナプス後電流(EPSC)のステップ数を測定することにより、個々のプルキンエ細胞に入力する登上線維の本数を定量し、IGF-Iの登上線維シナプス発達/除去への影響を解析した。その結果、生後8日目より小脳皮質にElvaxによりIGF-Iを投与した群のElvax近傍の小脳8葉では、生後24-36日目でも50%のプルキンエ細胞が2本以上の登上線維より多重支配を受けており、この多重支配の比率は、対照群としてvehicleを投与した群の15%より有意に高かった。一方、同じ個体の小脳でも、Elvaxから遠い小脳1/2葉および10葉では、IGF-I投与群、対照群とも、多重支配を受けるプルキンエ細胞の割合は20%程度で、両群間に有意な差は見られなかった。したがって、Elvaxにより投与されたIGF-Iの効果は小脳6-8葉付近に限局されており、小脳皮質内の受容体を介して、登上線維シナプスの発達・残存に影響していると考えられる。また、生後12日目よりIGF-Iを投与した群では、多重支配の比率に有意な上昇は認められず、IGF-Iの登上線維シナプスの発達・残存効果には、時期特異性があることが示された。
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