外因性のインシュリン様成長因子-1(IGF-I)を生後8日目にマウス小脳皮質に局所的慢性投与を行うと、成熟個体における小脳登上線維-プルキンエ細胞シナプスの残存率が上昇するという平成13年度の結果を受け、さらに以下のような実験を行った。まず、内因性IGF-Iの登上線維シナプス発達への影響を調べるため、ethylene-vinyl acetate copolymer (Elvax)を用い、IGF-Iの機能を阻害する中和抗体(Anti-IGF)の局所的慢性投与を行った。外因性IGF-I投与で効果が見られた生後8日目より、ElvaxによりAnti-IGFを小脳皮質に慢性的に投与されたマウスは、正常個体では登上線維シナプスの発達形成が完了している生後24日以降まで生存可能であった。そこで、小脳スライス標本を作製し、ホールセルパッチクランプ法でプルキンエ細胞から電気記録を行った。そして、登上線維シナプスの興奮性シナプス後電流(EPSC)のステップ数の測定により個々のプルキンエ細胞に入力する登上線維の本数を求め、IGF-Iの登上線維シナプス発達/除去への影響を解析した。生後8日目より小脳皮質にElvaxによりAnti-IGFを投与した群のElvax近傍の小脳8葉では、生後24-36日目において、2本以上の登上線維より多重支配を受けているプルキンエ細胞の比率は6%で、vehicleを投与した対照群の15%より有意に低かった。引き続き、生後8日目よりIGF-IあるいはAnti-IGFを投与したマウスの登上線維シナプスEPSCの振幅を解析したところ、対照群と比較してIGF-I投与群ではEPSC振幅の増大し、Anti-IGF投与群では減少した。以上の結果より、IGF-Iは、生後発達期のマウス小脳において、限られた時期に登上線維シナプスの伝達効率を増大させ、その結果、成熟個体におけるシナプスの残存率が上昇する作用を及ぼすことが明らかになった。
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