消化管平滑筋の膜電位は常に変動しており、周期的な膜電位の振動はスローウエーブ"slow wave"と言われている。消化管平滑筋は、スローウエーブの脱分極相が活動電位の発生の引き金となり、活動電位発生中に細胞内にカルシウムが流入することによって収縮する。また、消化管には間質細胞(interstitial cells of Cajal;カハール細胞)という特殊な細胞がネットワークを形成して筋層間に存在し、カハール細胞が周期的な収縮をつくり出すペースメーカー細胞と考えられている。しかしながらカハール細胞がどのように平滑筋細胞を制御するかについては不明な点が多い。これらの事を明らかにする目的で、今年は蛍光カルシウム指示薬を用いて個々の平滑筋細胞とカハール細胞のカルシウム動態を消化管組織内で同時に可視化した。自発活動時には視野内の細胞がほぼ同期して、かつ細胞全体で[Ca^<2+>]_i上昇を起こした。静止時には、平滑筋細胞の局所での[Ca^<2+>_i上昇も見られた。Ca^2ポンプの取込み阻害薬を処理すると、局所的[Ca^<2+>]_i上昇と自発的[Ca^<2+>]_i上昇の両方が阻害された。平滑筋細胞とカハール細胞の自発活動の同時測定から、約4割の標本では平滑筋細胞とカハール細胞に時間的な相関が認められたが、残りは平滑筋細胞との間には時間的な関連は認められなかった。以上の結果から、全てのカハール細胞が直接のペースメーカー細胞であるわけではないけれども、カハール細胞がペースメーカーを含めた多彩な機能を持つことを示した。さらに、自発活動発生には細胞内カルシウムストアの関与が重要であることも明らかにた。また当初の計画どおり、カハール細胞の初代培養細胞系を確立した。カハール細胞におけるイオンチャネルの性質を調べるために、現在電気生理と細胞内カルシウム濃度の同時測定の実験系をセットアップ中である。
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