ゲノムインプリンティングは親の性に依存的なゲノムの修飾を意味し、インプリント遺伝子はどちらの親に由来したかに応じて片方のアレルからのみ選択的に発現しているか発現量が著しく異なる。この奇妙な現象は、細胞の増殖・分化や個体の発生で重要な役割を果たし、メンデル遺伝に従わない遺伝病の他に癌・糖尿病・躁鬱病などの疾患への関与が報告されている。インプリント遺伝子の近傍には片アレル特異的に高メチル化されている傾域DMR (differentially methylated region)が存在し、DMRの脱メチル化と共にインプリンティングの破綻がみられることから、DMRのアレル別メチル化はインプリンティングを担う重要な機構であると考えられている。DMRはCpG island (CGI)様の配列と縦列反復構造をとるという構造的特徴を持つ。通常CGIは遺伝子のプローモーター領域に存在し、メチル化を免れているのに対し、インプリント遺伝子の近傍や不活性化されたX染色体では例外である。したがって、片アレルのみメチル化されているCGIを検索することでDMRを効率的に同定でき、その周辺領域から新規インプリント遺伝子が検出できると考えられる。本研究では、多くの疾患遺伝座がマップされ、塩基配列が正確であるヒト第11番染色体長腕をターゲットにした。in sillicoでそのゲノム塩基配列中からプログラムによるCGIの抽出を行い、SINE、LINEなどの反復配列を含むCGIをプログラムにより検出した後排除した結果、657個のCGIを得た。このとき同時に、抽出されたCGIの縦列反復構造をHarr-Plot解析により検出した。メチル化状況の解析には、独自に考案したHpa II-McrBC-PCR法を用い、DMRの網羅的検索を行った。現在、205個のCGIのHpa II-McrBC-PCR法による解析を終えている。哺乳類の多くのCGIがそうであるように、解析を終えた205個のうちそのほとんど(161個)が非メチル化を示した。そして、完全メチル化、不完全メチル化を示したものはそれぞれ、28個、1個であった。現在のところ、DMRである可能性を示したCGIは15個である。今後、残りのCGIのHpa II-McrBC-PCR解析を進めるとともに、DMRである可能性のあるCGIについてアレル別メチル化をBisulfite genomic sequencing法により調べる。そして、アレル別にメチル化状況の異なるCGIはSNPを利用してメチル化アレルの由来を明らかにし、その近傍の遺伝子発現のインプリンティングを検討する。
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