本年度はAZ1ノックアウトマウスの胎生致死の究明を中心に解析を行った。 解析当初観察された心室中隔欠損やその他の心発生異常は心特異的ホメオボックスNkx2.5欠損マウスと類似していた。またAZ1遺伝子周辺に複数存在するNkx2.5結合配列は、胎生致死との関連性を強く疑わせるものと思われた。しかし解析の結果、成体AZ1ホモ欠損マウスでは心室中隔欠損は観察されず、発育遅延に伴うものであることが明らかとなった。以後、心低形成のない胎仔にも高頻度に観察された肝低形成、全身蒼白に着目し解析を続けた。 胎生13.5日(E13.5)の肝臓を構成する肝細胞、造血細胞、内皮細胞について、特異的分化マーカーを用いタンパク質発現解析を行った結果、ヘモグロビン(造血細胞)の発現はホモ欠損型で著明に低かった。胎児肝で造血細胞の分化ないし増殖異常が存在することが明らかとなり、貧血により全身蒼白を呈することが予測された。E15.5胎児血管に存在する有核赤血球率、多染性赤血球率がホモ欠損体で増加することより、貧血の存在を明らかにした。ホモ欠損体は卵黄嚢造血(一次造血)時に異常はないが、肝造血(二次造血)が盛んとなる時期に一致して、肝低形成、貧血が観察された。光顕、電顕を用いた組織学的、免疫学的観察により、E12.0以降、肝細胞索内で増殖中の二次造血赤芽球系に特異的にアポトーシス陽性細胞が観察された。前年度に報告したオルニチン脱炭酸酵素、ポリアミンが著明に増加することと、造血細胞の分化能、アポトーシス像との関連を分子レベルで解析中である。さらに血球分化能についてコロニーアッセイを用いて解析中である。 造血細胞増殖の足場となる内皮、間質細胞には、電顕上形態異常は認められなかった。しかし血球分化因子を発現する間質細胞は、造血異常の原因となりうるため、血球細胞との共培養系を用いて解析中である。
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