昨年度、申請者らは1)新規cAMPセンサー、cAMP-GEFIIがRab3標的分子Rim2を介して、cAMP依存性であるが、PKA非依存性であるインスリン分泌を担うことを明らかにした。また2)cAMP-GEFIIを中心とした分子間ネットワークを明らかにするために、yeast two-hybrid法を用いてインスリン分泌細胞株MIN6のcDNAライブラリーを探索したところ、cAMP-GEFIIと相互作用する新たな分子としてPiccoloを同定した。Piccoloはシナプス前膜のactive zoneに局在し、開口放出装置の構築に関与することが示唆されているが、膵β細胞での機能は全く知られていない。そこで本年度はcAMP-GEFIIによる新たな開口放出の分子機構の解明を目的として、Piccoloの役割を検討した。まず、1)Piccoloに対するアンチセンスオリゴヌクレオチド処置した膵β細胞を用いて、cAMPによるインスリン分泌増強を検討したところ、有意に抑制された。2)また、PiccoloはcAMP-GEFIIを介するインスリン分泌に関与していた。3)さらにPiccoloはカルシウム依存性にPiccolo/Piccoloホモダイマー、あるいはPiccolo/Rim2ヘテロダイマーを形成することから、インスリン分泌におけるカルシウムセンサーとして機能していることが予想された。以上のことから、PiccoloはcAMP-GEFII/Rim2とともに複合体を形成することによって、cAMP-GEFIIを介したインスリン分泌機構に関与することが示された。本研究で得られた知見はcAMPによる開口放出機構の全容の解明に大きく寄与するものであり、cAMPによる神経伝達物質の放出及びインスリンなどのホルモン分泌の分子機構とその破綻による病態を解明する上でも極めて重要である。
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