WT1はウィルムス腫瘍(WT)の原因である癌抑制遺伝子であるが、その変異は約10%しか認められない。DNAメチル化により各種癌関連遺伝子が不活化されることから、WT1についても同様の機序が考えられる。WT22例について、WT1変異、11p13LOH、WT1発現定量、プロモーターメチル化解析を行った。10例にWT1発現低下を認め、1例が高メチル化を示した。この1例はLOHも認めたため、メチル化とLOHによるWT1のtwo hitが、発癌に関与していると考えられた。次に、レポーター遺伝子解析により、WT1プロモーターのメチル化が遺伝子発現を著しく抑制することが示された。これは、頻度は低いが、メチル化がWT1発現低下を起こすエピジェネティックな原因の一つであることを示唆する。一方、WT1変異とβ-カテニン変異は高頻度に合併することが報告されている。WT1発現低下例中にβ-カテニン変異は認められず、変異を認めた1例ではWT1発現は低下していなかった。これよりβ-カテニン変異とWT1発現量に関連はないと考えられた。 WT1遺伝子座の近くには、WTに関連するゲノム刷り込みドメインが存在する。この刷り込みドメインはH19からIPL/IPlまでと考えられているが、IPL/IPl側の境界は決定されていない。我々は、従来の境界を越えた領域に新規刷り込み遺伝子OBPH1/Obph1を同定した。これによりヒト・マウスの刷り込みドメインは従来の境界を越えて伸長することがわかった。OBPH1/Obph1は、ヒト・マウス共に胎盤で母性アレル優勢発現を示したが、5'CpG島は両アレルとも低メチル化状態であった。本遺伝子の刷り込み状態は、DNAメチル化と関連しなかったが、ドメインレベルでの刷り込み調節機構により制御されている可能性が考えられる。
|