研究概要 |
DNA中に生じた損傷塩基は突然変異の原因となる場合が多いため、その修復機構である塩基除去修復系の酵素遺伝子の一塩基多型(SNP)に基づく修復活性の差異は、各個人における遺伝子異常の起こりやすさを遺伝的に規定することになる。そこで、本研究は、塩基除去修復系遺伝子のSNPに基づく多型蛋白質の修復活性の差異を同定していくことを目的とする。これまでに、この系に属するOGG1,MYH, APEX遺伝子のSNPを同定し、その活性を、組み換え蛋白質あるいは大腸薗の系で比較してきた。そこで、本年度は、ヒト細胞内におけるこれらの多型蛋白質の活性を比較検討するため、まず、野性型蛋白質の突然変異抑制能を検討した。肺がん細胞株H1299のOGG1,MYH, APEX高発現株を樹立し、シャトルプラスミドpMY189に対する変異抑制能をsupF前進突然変異分析により検討した。pMY189のsupF遺伝子内に一ケ所損傷塩基である8-ヒドロキシグアニン(oh^8G):C塩基対を導入したpMY189-oh^8Gあるいは、pMY189をin vitroでベンゾ[a]ピレン代謝産物B[a]PDEと反応させて得たpMY189-B[a]PDEを、H1299に導入、複製後に回収し、大腸菌KS40/pKY241に導入することにより、ヒト細胞内でのsupF遺伝子変異頻度を調べた。すると、oh^8Gを含まないpMY189の場合と比べそれぞれ65倍、34倍の上昇を認めた。また、いずれの場合もG:C->T:A変異が優位に認められた。pMY189-oh^8Gの場合の、変異率および、oh^8G:C箇所におけるG:C->T:A変異率は、OGG1およびMYH高発現株で有意に減少したが、APEX高発現株では有意な差は認められなかった。一方、pMY189-B[a]PDEの場合は、いずれの高発現株でも親株と比べ有意な差は認められなかった。以上より、OGG1,MYH蛋白質は、ヒト細胞内においてoh^8GによるG:C->T:A突然変異のサプレッサーとして働くことが示唆された。この系を利用して現在、多型蛋白質間での活性の差を検討中である。
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