【目的】Buerger病(Thromboangiitis obliterans ; TAO)の発生病理については未だ定まった見解は得られていないため、その鑑別疾患として重要な閉塞性動脈硬化症(arteriosclerosis obliterans ; ASO)あるいは血栓塞栓症等と対比した病理組織学的な研究により、病像を明らかにする。 【材料】79例の患者より採られた94の下肢切断検体を用いた。これら94検体の臨床診断は、TAOが31例、ASOあるいは糖尿病が35例、chronic arterial occlusion(CAO)が12例、血栓症が4例、膠原病が7例、壊死が5例であった。さらに対照例として剖検例より得られた31例の成人の左下肢の大腿動脈、前脛骨動脈、後脛骨動脈、腓骨動脈を加えた。 【方法】CD3、CD4、CD8、CD20、KP1、CD31、ACE、Mib1等の発現を対照例とともに比較検討した。血管の部位を内膜、内弾性板領域(IEL : internal elastic lamina)、中膜、外膜の4つに分けて、各々の部位ごとに、陽性細胞の発現の程度を0から3の4段階に分けて評価した。Spearman's correlation(2変量の相関分析)を用いて、臨床診断と免疫組織化学的所見の相関を調べた。 【結果】TAOでは、ASOや血栓症と比べて、内膜にKP1陽性のマクロファージが少ない一方、IEL領域や外膜にマクロファージやリンパ球が多く、Mib1陽性細胞は血管内皮細胞に多いという特徴的な所見が得られた。また、TAOではvasa vasorum周囲にリンパ球やマクロファージの出現する像が目立った。 【考察】TAOの炎症の主座はvasa vasorumの多い外膜にあり、微小血管の傷害と再生が病変の成り立ちに関与していることが考えられる。また、IEL領域の弾性線維に対する炎症像も伴うことが示唆された。
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