研究概要 |
肥満細胞キマーゼが慢性肝疾患の病期進展および線維化過程へおよぼす影響、殊に血管作動性物質の1つであるアンジオテンシンの作用を介したものに焦点を絞り、研究に取り掛かった。肥満細胞キマーゼは、炎症反応の制御やアンジオテンシンの活性化に関与することが知られている。アンジオテンシンは近年、肝線維化機序や門脈圧亢進に関与しうる因子として、エンドセリンなどとともに注目されており、肥満細胞はこれらの作用を介して、慢性肝疾患の病態に関与している可能性が考えられる。仮説の基盤となる、肥満細胞キマーゼおよび組織レニン・アンジオテンシン系の肝組織内での発現様態を、ヒト肝硬変患者肝組織を対象に検索した。免疫組織化学的にキマーゼ陽性細胞を検出し、その分布密度をモルフォメトリー技法の応用により算出した。組織レニン・アンジオテンシン系については、アンジオテンシン受容体の発現を、免疫組織化学、モルフォメトリーおよびポリメラーゼ連鎖反応を組み合わせ、蛋白およびmRNAレベルで解析した。その結果、肝硬変組織内ではキマーゼ陽性肥満細胞は正常肝に比べ有意に増加していることが明らかとなった(次頁、研究発表2,4)。アンジオテンシン受容体mRNA発現は硬変肝においても保たれ、またアンジオテンシン受容体を発現した血管は硬変肝において増加し、門脈圧との相関が認められた(研究発表1,3)。さらにアンジオテンシン受容体発現血管量はキマーゼ陽性肥満細胞数と正相関した(研究発表2,4)。以上の結果から、キマーゼにより活性化された過剰なアンジオテンシンは、慢性肝炎・肝硬変の病態下において、肝組織内に分布する血管や筋線維芽細胞に作用し、門脈圧亢進症や線維化促進に関与しうることが示唆された。来年度は検索対象をアンジオテンシンの組織濃度の測定やエンドセリン系の種々の項目にも拡げ、慢性肝疾患における肥満細胞キマーゼの役割について、その可能性をより深く検討していく予定である。
|