研究概要 |
【目的】潰瘍性大腸炎(UC)においては高頻度で大腸癌を併発するが、これは"慢性炎症-異形成-癌"という発癌過程の一表現形と考えることができる。この発癌機構を解析・解明することにより、通常孤発大腸癌発癌機構の解明及びそれとの差異を明らかにすることを目的とした。 【方法・結果】通常孤発性大腸癌においてp53遺伝子変異とその蛋白質過剰発現は、p53により発現誘導されるp53R2の発現と相関することを明らかにした。すなわち、p53が中等度に発現し、かつp53R2が陽性である場合にp53遺伝子は野生型であった。p53野生型腫瘍におけるp53R2発現は生化学的にもwestern blot法で確認した。 連続切片を利用して、潰瘍性大腸炎非腫瘍例においてはその炎症巣におけるp53の発現はp53R2発現を伴っており、p53,p53 Ser15リン酸化、p53R2、iNOSの陽性所見は相互に相関することも明らかにした。逆に異形成及び癌併発例においてはp53発現とp53 Ser15リン酸化は相関するものの、p53R2発現には相関は認められなかった。 【考察】(1)p53遺伝子異常とp53蛋白質の過剰発現は必ずしも一致しないというこれまでの知見に対して、p53R2蛋白発現という新たなマーカーを加えることにより、p53の遺伝子変異の有無を免疫組織化学的にも推定することが可能となった。(2)UC炎症巣(非腫瘍)においてはp53の発現に加えて、そのSer15のリン酸化、p53R2発現、iNOS発現が相関して認められ、炎症に伴うiNOS発現、DNA損傷に伴うp53発現、活性化及びp53R2発現誘導とDNA修復が行われていると考えられる。(3)UC関連異形成及び癌病変においてはp53発現亢進及びSer15リン酸化による活性化は見られるものの、p53自身の変異等によってp53R2の発現亢進は認められず、これはp53のG1チェックポイント機構不全によりDNA修復が行われず、腫瘍化の一因となることを示唆している。
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