剖検例の糖尿病症例および非糖尿病症例のヒト冠動脈、大動脈の粥腫病変の切片に各種の染色を行い、蛍光偏光顕微鏡で粥腫内外のセロイド様自家蛍光物質の局在と形態を観察し、抗AGE抗体、抗マクロファージ(CD68)抗体、抗HNE抗体を用いた酵素抗体法も施行した。また蛍光分光光度測定装置にて、粥腫内外の蛍光物質の蛍光波長と単位面積における蛍光物質の出現量を測定し、画像解析装置にて分布を検討した。その結果、糖尿病症例の粥腫病変での単位あたりの蛍光量は、非糖尿病症例の粥腫での出現量に比較して有意に高い値を示した。また泡沫細胞内に見られる顆粒状蛍光物質、細胞外の小管状蛍光構造集簇状および、大型孤立性の細胞外リング状自家蛍光物質の比較では、蛍光輝度の著しい変化は無く、大型の構造ほどその波長は短波長側へのシフトを示した。蛍光物の分布は小型顆粒状蛍光物質を含む泡沫状細胞と小管状蛍光構造集簇部は粥腫辺縁部に多く、粥腫中央部に向かうに従い、蛍光構造の平均周囲長は増大し、大型のリング状構造が主体となり、かつ単位面積での構造の個数は減少傾向を示した。酵素抗体法の結果、糖尿病症例の粥腫内の自家蛍光物質にはAGEの局在が認められた。また、顆粒状構造を有する泡沫状細胞のみならず、細胞外のリング状構造の周囲にもCD68の陽性が認められた。また抗HNE抗体の局在は粥腫中心部でセロイド様蛍光構造の周囲に多く観察された。以上から、糖尿病症例の粥腫病変ではタンパク糖化に関連して多量のセロイド様自家蛍光物質が出現し、その多くはマクロファージに由来し、構造増大の過程で蛍光波長に変化が見られることは、蛍光構造の増大が付加的な反応によって促進される可能性を示唆している。さらに抗AGE抗体の自家蛍光物質での局在および抗HNE抗体の局在などから粥腫内部でのタンパクの糖化反応生成物が構造の増大に寄与すると予想されると共に粥腫内での過酸化反応物の蓄積とも密接な関連性を有して、粥腫の脆弱性の亢進に関与している可能性が示唆された。
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