本研究の目的は、肺腺癌におけるK-ras-PI3K-AKT/PKB経路の意義を明確にし、同経路の阻害剤による治療への可能性を検討することである。 本年度は、K-ras-MEK-MAPK、K-ras-PI3K-Akt経路の肺腺癌発生における意義を主に培養細胞を用いたin vitroの実験系で検討し、次のような結果を得た。 1.変異型K-ras遺伝子をSV40形質転換ヒト末梢気道上皮細胞株(HPL)に導入することによってAkt活性の増加と細胞走化性の亢進が引き起こされた。 2.この走化性の亢進は、ras阻害剤によってほぼ完全に、MEKあるいはPI3K阻害剤によって部分的に、両者の併用によってほぼ完全にブロックされた。また、変異K-ras導入HPL(HPLD12)に抑制変異型Akt(dnAkt)を遺伝子導入することにより走化性の抑制が観察された。また、HPLD12にdnAktを導入した細胞株は安定化せず、3回ほど継代すると死滅した。 3.肺腺癌の臨床検体では25例中4例にリン酸化型Aktの発現が検出され、非浸潤性の早期病変にも陽性例が見られた。 以上の結果から、K-ras-PI3K-Akt経路は細胞の生存を支持するばかりでなく、走化性の制御にも関与することが示唆された。また、同系路は実際のヒト肺腺癌でも作動しており、発癌過程おいて重要な意義をもつ可能性が示唆された。
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