研究概要 |
ヒト乳癌の15%で遺伝子増幅と発現の亢進が見られることから,癌遺伝子と考えられているEMS1遺伝子は,Srcチロシンキナーゼの基質cortactinをコードする。乳癌由来の細胞株ではpodosomcと呼ばれる細胞・基質間接着部位にアクチン繊維と共に濃縮されることから,cortactinは癌細胞の浸潤・転移に関与すると考えられている。我々はハエとマウスの解析から,cortactinがC末のSH3領域を介して細胞間接着の裏打ちタンパク質ZO-1と相互作用すること,両タンパク質が細胞間接着部位で共存することを見いだした。癌細胞とは異なり、正常な上皮細胞においてはcortactinはZO-1と共に細胞間接着に関与するものと思われる。cortactinはN末側の37アミノ酸を単位とする6.5回の反復配列を介してアクチン繊維に結合する事が知られているが,我々はマウス転写産物の解析から,反復回数が6.5回の型に加え5.5回,4.5回,3.5回,2.5回のイソ型が存在し,それらの発現量が臓器毎に異なることを見いだした。各イソ型の機能の違いを検討するために,蛍光タンパク質(EYFP)もしくはMycepitopeのタグで標識した各イソ型,さらに数種の欠失変異型のcortactinを発現する組み換え遺伝子を構築し,マウス乳腺由来およびイヌ腎臓由来の上皮性細胞株に導入した。6.5型は,内在性cortactin同様,細胞質に広く分布すると同時に細胞間接着部位に濃縮された。他のイソ型も同様の分布を示したが,反復回数の少ないイソ型は細胞間接着部位への濃縮の程度が低い傾向があった。反復配列を含むN末側半分を欠く変異型は細胞間接着部位に濃縮されなかった。SH3領域の欠失変異型では細胞間接着部位への濃縮が認められた。試験管内でアクチン繊維との相互作用を検討したところ,反復回数が少ないイソ型ほどアクチン繊維への結合が弱いことが確認された。以上の結果から,cortactinの細胞間接着部位への局在にはアクチン繊維との相互作用が重要で,反復回数の少ないイソ型は濃縮の程度が低いと考えられた。ZO-1との相互作用に必須のSH3領域は,アクチン繊維との相互作用には関与せず,細胞問接着部位への局在には必須でないと思われる。現在,各イソ型および欠失変異型の過剰発現が細胞に与える影響を検討中である。
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