1993年に、リピート配列の1種、マイクロサテライト配列の変化が、ヒト大腸癌で、続いて遺伝性大腸癌、HNPCCにみられることが報告された。同年末にこのHNPCC家系内に重要なDNA修復系であるDNAミスマッチ修復系を構成する遺伝子の変異が遺伝していることが示されるに至って、腫瘍でみられたマイクロサテライト配列変化はミスマッチ修復(MMR)異常によるものと考えられた。しかしながら、研究代表者らは高精度な解析系を用いると、ヒト腫瘍でみられるマイクロサテライト変化には少なくとも2つのカテゴリーが存在することを見出した。ひとつは長さの変化が比較的小さく、6-bp以内のもの(Type A)であり、いまひとつは変化の規模が8-bp以上で、新しいアレルが出現したかのような変化を呈するもの(Type B)である。興味深いことに、MMR遺伝子に既知の変異をもつヒトおよびマウス細胞ではすべて前者(Type A)のみが観察された。本研究ではそれぞれのマイクロサテライト変化、特にType BとMMR異常との関係を明らかにすることを目標とした。150例におよぶ大腸癌症例において、マイクロサテライト変化、hMSH2およびhMLH1遺伝子の構造異常および発現異常を網羅的に解析したところ、Type Bを呈する腫瘍ではhMSH2、hMLH1遺伝子変異はその2割程度にしか観察されなかった。Type Aには若干これより多く変異が見つかる傾向があった。HNPCCではType Bがほぼ100%観察されるが、このType Bにおける両遺伝子の変異頻度はHNPCCでこれまで報告されてきたものとよく一致する。これらの観察は、これまでのようにすべてのマイクロサテライト不安定性をMMR異常に単純に結び付けることには困難があることを示唆しており、極めて興味深い結果となった(以上投稿準備中)。
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