研究概要 |
クロロキン(CQ)耐性熱帯熱マラリア原虫の拡散はマラリア流行地における大きな問題であるが、CQはその安全性や易入手性により依然として有用性の高い化学療法薬である。1999年Wellemsらが原虫第7染色体上に約4kbの遺伝子pfcrtを発見。観察された76,220,271,326,356,371位の変異のうち、76位変異とCQ耐性能との完全連鎖を証明したことにより耐性機序の解明の糸口が開けた。 本年度はパプアニューギニアにおいて行われたCQ薬剤感受性試験のサンプルを解析し、マラウイにおける結果と比較することによって、CQ薬剤圧と耐性関連遺伝子の関係についての探索を行った。 パプアニューギニアではCQが三日熱のみならず熱帯熱マラリアの治療薬として使用されており、当地におけるCQ薬剤圧は高い。2002年11月、北東部ウェアクにて行われたin vitro薬剤感受性試験では、38%が耐性、62%が境界型であり、耐性の深刻化が明らかにされた。pfcrtは全例、356位以外全て変異を持ったタイプ、またpfmdr1は86位変異を90%に認め、当地における原虫のCQ耐性関連遺伝子変異が非常に高い段階まで進行していることが明らかになった。 マラウイは1980年代後半よりCQ耐性原虫が増加。1990年には80%を超えたため保健医療政策を変更、1993年よりCQ投与は全面的に禁止された。マラウイにおいて我々が1998および2000年に行った調査ではCQ耐性は9%と急激に低下しており、K76T変異の割合も7%とCQを使用している他のアフリカ諸国(50-80%)に比べ著しく低いことを見出した。また、全ての耐性原虫は326,356以外の部位に変異を持つタイプだった。一方pfmdr1の86位における変異の頻度は48%であり他のアフリカ諸国での報告とほぼ同様であった。 両フィールドにおけるpfcrt変異原虫の頻度が大きく異なることは興味深い。 強力なCQ薬剤圧下において原虫はpfcrt遺伝子に変異を起こすことにより環境に適応していったが、変異によるfitness costが高いため非CQ薬剤圧下では淘汰されてしまったことが示唆される。今回5-7年という短期間のCQ使用中止で急激なCQ感受性の回復およびそれを裏付ける耐性関連遺伝子変異原虫の減少が示されたことは、今後のマラリア対策上極めて重要な医学的意義があると思われる。
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