腸管出血性大腸菌は多くの病原性因子を持つことが知られており、個々の因子に関する研究は進みつつある。しかし、病原因子遺伝子の多くには多様性(変異)があり、この多様性がどの程度存在するのか、また、多様性がどのようにヒトへの病原性に影響を与えるかについてはあまり調べられていない。本研究は腸管出血性大腸菌の持ついくつかの病原因子の多様性を調べることにより、それぞれの因子の機能解析を行うことを目的とする。 Stx遺伝子についてはほぼ解析を終えているため、次にrpoSの解析を行うこととした。rpoSは腸管出血性大腸菌の持っストレス耐性(酸、凍結、乾燥など)に関与しており、ストレスに応じる遺伝子の発現制御を行っていると考えられている。SSCP法によりrpoSの多様性を調べることとした。SSCPのために4セットのPCRプライマーを設計し、それぞれのセットに対して最適化を行った。10株を用いて、増幅した断片をSSCPの条件について検討した結果、10株という限られた数においても多くの異なるSSCPパターン(変異)が認められた。しかし、PCR-SSCPでは、再現性の面でやや問題があること、また、似た泳動パターンを示す株間の比較は同一ゲルにおいて泳動しないとできないことなどはPCR-SSCPを通常のポリアクリルアミドゲルで分析することの限界と考えられた。この問題を克服するために、ABl Genetic Analyzer 310を用いたCapillary Electrophoresis SSCP(CE-SSCP)法を用いて分析を行っている。現在、最適化が終わり、患者分離株を用いて解析を行っているところである。一部の株のみの解析結果であるが、rpoSの変異は5'側から中間領域にかけて存在し、3'側は保存されていることがわかっている。
|