ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-I)は、成人T細胞白血病(ATL)の原因ウイルスであることが知られている。ATL発症に至る過程には感染細胞側の多段階の変化と宿主免疫応答の変化の両者が関連すると考えられ、発症機序の解明には、感染細胞側の癌化機構と宿主側の発癌防御機構について対照的に解析することが必要である。我々はこのような解析を行うために、ラットを用いたATL様疾患動物モデル系を確立し、その系の中でウイルス蛋白Taxによる免疫で誘導した長期培養CTL細胞株がHTLV-I感染T細胞株におよぼす影響についてin vitroで解析した。その結果、CD8陽性CTL細胞株(401/C8)とGFP発現HTLV-I感染T細胞株(FPM1V.EFGFP)を長期間共培養により、CTLに抵抗性になったFPM1V.EFGFPのサブクローン(FPM1V.EFGFP/8R)が樹立された。この細胞では抗原であるTaxの発現は維持されていたが、MHC-Iの発現低下が確認された。さらにこの発現低下はTaxの主要エピトープを提示することが分かっているRT1.A^1において特に強く起こっており、MHC-Iの発現低下がCTLからのエスケープに関与している可能性が示された。また、FPM1V.EFGFP/8R細胞においては、エピトープのアミノ酸配列に変異も確認されたが、その頻度は3%程度と低かった。以上の結果から、Tax特異的CTLの圧力を受けた場合、HTLV-I感染T細胞はTaxの発現を維持したまま、MHC-Iの発現低下によりCTLからエスケープする可能性が示された。また、エスケープへの関与は低いと思われるが、CTLにより変異エピトープを有する感染細胞が選択される可能性も示唆された。CTLからエスケープ可能な感染細胞は生体内おいて優位に増殖すると考えられ、ATLの発症過程への関与が示唆された。
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