欧米のHIV-1感染者のコホートにおいて、エイズ発症の遅延と相関するヒトゲノム上のSNP(single nucleotide polymorphism)の一つとしてCCR2-64Iが知られている。このCCR2-64I遺伝子変異がHIV感染に影響を与える分子機構について解析した。CCR2-64I変異は、CCR2分子の64番目のアミノ酸がバリン(V)からイソロイシン(I)に変異する。CCR2遺伝子からは、スプライシングの違いにより、CCR2AとCCR2Bの2つの分子が作られる。CCR2Bでは、64番目のアミノ酸がバリンのものもイソロイシンのものも、HIVコレセプター活性も、ケモカインレセプター活性も違いがないことが知られており、今までの国内外の研究では、CCR2-64I遺伝子変異のエイズ発症遅延効果の分子機構は明らかではなかった。本研究者はCCR2A分子のほうに着目した。CCR2A分子はCCR2B分子と違い、主に細胞質に存在するが、64番目のアミノ酸をバリンからイソロイシンに置換すると、細胞室内でCCR2A分子の安定性が増すことがわかった。CCR2分子は、HIV感染には極めて重要なコレセプターであるCCR5分子と相同性が高く、CCR2AとCCR5が2量体を形成すること、その結果、細胞質に留まる性質のCCR2Aの共存により、CCR5分子の細胞表面への輸送が阻害されること、更に、この阻害効果は、64番目がバリンのCCR2AよりもイソロイシンのCCR2Aのほうが強いことが明らかとなった。このことから、CCR2-64I遺伝子多型によるエイズ病態遅延効果は、CCR2A-64I分子によってCCR5コレセプターの細胞表面発現が阻害されていることによる可能性が示唆された。
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