本年度は当該健常者ボランティアの末梢血白血球画分、及び末梢血リンパ球画分よりmRNAを抽出し、定量的RT-PCR法によりCYP1A1の発現量の正確な定量を行った。その結果、CYP1A1の発現量が非常に低いと思われていた当該健常者ボランティアにおいて、採血した日時の違いにより、β-アクチンで補正したCYP1A1の発現量が大きく異なる場合のあることが見出された。そこで他の健常者ボランティアにおいて、異なる日時で複数回の採血を行い、末梢血白血球画分及び末梢血リンパ球画分でのCYP1A1の発現量を測定したところ、同様に同じ対象者の間で大きな変化が観察された。末梢血白血球はCYP1A1の主要な発現組織ではないため、低いレベルの発現量をべースラインとして維持していると考えられる。そのため例えばダイオキシン類やその他の多環芳香族炭化水素の曝露により、芳香族炭化水素受容体(AhR)を介した誘導が起きると、大きな変化として現れると考えられる。今回測定を行った対象者は全て非喫煙者であり、タバコによるCYP1A1の誘導には注意を払ったが、それでも受動喫煙による影響や、自動車等の排気ガス、及びダイオキシン類等の曝露量の変化による影響を否定することができない。従って、さらに同一対象者で同じ測定を重ねて行い、CYP1A1の発現量の定常的なレベルの推定を行い、その発現レベルとCYP1A1の発現に関与していると考えられる各分子の遺伝的多型との関連について、解析を行う予定である。
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