当該健常者ボランティアの末梢血白血球画分及び末梢血リンパ球画分のCYP1A1のmRNAの発現量を、複数回の採血時において定量的RT-PCR法により測定したところ、大きく変動しているものの他の健常者ボランティアより低い傾向が確認された。そこで当該健常者ボランティアの遺伝的多型を、芳香族炭化水素受容体(AhR)、AhR nuclear translocator (Arnt)、AhRR (AhR repressor)の各分子やxenobiotic responsive element (XRE)やbasic transcription element (BTE)の各エンハンサー配列に関して詳細に検討したが、既知の遺伝的多型のみで新しいものは確認されなかった。これらの既知の遺伝的多型は、当該健常者ボランティア以外の他の対象者にも存在しているため、CYP1A1の発現量に強く関与している遺伝的多型は、他の関連分子に存在しているものと推定される。一方、今回の対象者を含め、複数の健常者ボランティアにおいてCYP1A1及びCYP1B1の発現量の相関に関して検討してみたところ、CYP1B1のみの発現量が少なくCYP1A1は他と同レベルであるという対象者が存在した。CYP1A1及びCYP1B1は、ともにダイオキシン類やベンゾ[a]ピレン等の芳香族化合物がAhRに結合して核内に移行し、最終的にAhR-Arnt複合体がXREに結合することにより転写が活性化されると現在考えられている。従って、CYP1A1及びCYP1B1は共通の機構を持つことにより、同時に転写が活性化される場合が多いと考えられるが、この発現量の差は異なる制御機構の存在を示唆しており、非常に興味深い知見である。今後、このCYP1A1とCYP1B1の発現機構の違いについても検討していく予定である。
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