研究目的:近年ストレス関連疾患増加が労働力の低下あるいは医療費の増大を招き、その社会的損失は大きな問題となっている。生活の質(Quality of Life : QOL)は疾病に対する重症度評価、治療効果の判定を行う一つの有用な手段である。慢性疾患のうち、消化器疾患は他の臓器疾患に比較して健康観と精神的健康がより障害されていることが知られている。そこで我々は、自覚ストレスが大きいほど、消化器症状あるいは全般健康観についてのQOLの障害が大きいという仮説を検証した。 研究方法:255例の重症疾患を有さない産業労働者(男性208例、女性43例、平均40±1才)を対象として質問紙調査を行った。自覚ストレス調査票(Perceived Stress Scale : PSS)と同時に、ライフイベントの評価としてSocial Readjustment Rating Scale(SRRS)、消化器症状を抽出した症状特異的なQOLとしてGastrointestinal Symptom Rating Scale(GSRS)、全般的な健康関連QOLとしてSF-36、不安感の評価としてSTAI、抑うつ気分の評価としてSDSを測定し、自覚ストレスの高い群と低い群に分類してそれぞれを比較した。 新たな知見等の成果:自覚ストレスが高い群(97例)では低い群(158例)に比較して、状態不安尺度(p<0.001)、特性不安尺度(p<0.001)、抑うつ尺度(p<0.001)が有意に高く、酸逆流(p<0.002)、腹痛(p<0.005)、消化不良(p<0.001)、下痢(p<0.005)、便秘(p<0.02)の各消化器症状スコアも同様に高値であった。全般健康観では身体機能(p<0.02)、身体機能の障害による役割制限(p<0.0001)、痛み(p<0.001)、社会機能の制限(p<0.001)、全体的健康観(p<0.001)、活力(p<0.001)、精神機能の障害による役割制限(p<0.001)、メンタルヘルス(p<0.001)の各得点が高自覚ストレス群では有意に低下していた。一方、ライフイベント数は両群間に有意差が認められなかった。 以上の結果より、ライフイベント数よりも自覚ストレスが強いほど、精神機能だけでなく、消化器症状を含めた身体機能が障害されると結論づけられる。このことから消化器疾患、中でも過敏性腸症候群をはじめとする機能性消化管障害の発症を考慮する上で、自覚ストレスの評価は一次あるいは二次予防において有用であるものと考えられた。
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