我々は、平成11年に福岡県浮羽郡田主丸町で行った一般住民検診に於いて、動脈硬化性病変を評価する補助的手段として、非侵襲的で観察が可能な高解像度頚動脈超音波断層検査を取り入れた。対象は本検診を受診した40歳以上の男女1920名であり、3名を除く1917名(男性792名、女性1125名)に同検査を施行した。その結果、男女とも加齢とともに頚動脈内膜・中膜厚(以下IMT)は肥厚し、男性は女性より有意に高値(p<0.001)を示した。古典的な4大冠危険因子を高血圧(収縮期血圧160mmHg以上、または拡張期血圧95mmHg以上、または降圧薬服用中のもの)、糖尿病(ヘモグロビンA1cが6.5%以上、または経口糖尿病薬服用中やインスリン注射中のもの)、高コレステロール血症(総コレステロールが220mg/dl以上または高脂血症治療薬服用中のもの)および習慣的喫煙者と定め、これらの重複数によって、IMTの肥厚度や頚動脈プラークが存在する頻度がどのように増加するかを分析した。 その結果、冠危険因子のないグループ(n=577)のIMT値0.67mmに対して、危険因子1個(n=887)のグループのIMTは0.71mm(p<0.001)、危険因子2個(n=389)のグループのIMTは0.74mm(p<0.001)、危険因子3個以上(n=55)のグループのIMTは0.78mm(p<0.001)と有意に高値を示した。さらに、プラークが存在する相対危険度は、冠危険因子のないグループを1.0とすると、危険因子1個のグループは1.1、危険因子2個のグループは21(p<0.001)、危険因子3個以上のグループは実に3.4倍(p<0.001)の高率を示した。 このように、冠危険因子が重積すると頚動脈硬化は強くなり、そのコントロールの重要性が改めて示された。これまでに古典的な冠危険因子の重積と頚動脈エコー所見に関する明らかな前向き疫学調査の報告は無く、また古典的な冠危険因子の重積と心・脳血管病発症との関連性を確認した大規模な縦断調査も本邦では報告されていない。現在、我々は検診後5年間(平成16年まで)にその発症状況を調査しており、予後との関連を検討する予定である。
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