【目的】死を望む終末期がん患者の背景に存在する身体的・心理杜会的・実存的苦痛など様々な苦痛を明らかにすることにより、終末期がん患者が希望を失うことなく生活を送ることが可能となる包括的な介入方法を確立するうえでの基礎的知見を得ることを目的とする。 【対象と方法】対象は、国立がんセンター東病院緩和ケア病棟に登録したがん患者のうち18歳以上、がん告知を受けている、調査が可能な身体状態にあるものとし、緩和ケア病棟登録後の外来受診時に、面接により患者の死に対する願望を評価した。また、死に対する願望の背景に存在する苦痛要因を評価するために、身体的苦痛(痛み、呼吸困難など)、精神的苦痛(抑うつ)、実存的苦痛(自律性の喪失、依存、尊厳など)などに関して調査を行った。がんの部位、臨床病期、がんの治療歴などの医学的情報は診療録から得た。本研究施行に際しての倫理的配慮として、本研究は患者の自発的意思に基づくものであり、拒否しても治療等に一切影響を受けないこと、一度同意した後でも随時撤回可能であること、プライバシーは厳重に保護されること等について患者本人に文書で説明し、文書で同意を得た。 【結果(平成13年度の研究実施状況)】現時点までに150例の参加を得た。その結果、21.3%に軽度、9.3%に臨床的に顕在化した希死念慮が認められた。単変量解析の結果、臨床的に顕在化した希死念慮に関連する要因として、若年、便秘、様々な懸念(経済、子供、痛み、依存、家族の重荷)、抑うつが抽出された。これら要因を投入して多変量解析を行ったところ、抑うつのみが有意な要因であった。 【考察】わが国の終末期がん患者に希死念慮が認められることは稀ではなく、その際には抑うつの評価および背景に存在する多次元の苦痛症状に対する包括的対応が重要であることが示唆された。
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