研究概要 |
本研究では,まず,生体試料中に存在する微量の臭素系難燃剤ポリ臭素化ジフェニルエーテル(PBDEs)を高精度で分析することを目的として,炭素の安定同位体13Cでラベル化したPBDEsを内部標準物質に用いる分析法の開発を行った.PBDEsの分離検出には選択性と検出感度に優れたガスクロマトグラフ/高分解能質量分析計(GC/HRMS)を用いた.PBDEs(ネイティブ3〜7臭素化体16種類および13C-ラベル化3〜6臭素化体5種類)を添加した母乳抽出脂肪を室温アルカリ分解法および多層シリカゲルカラムを用いて前処理しGC/HRMSで電子イオン化測定したときの各異性体の補正回収率は概ね80〜110%, RSD<10%の範囲内であり,満足できる定量精度であった.また,クロマトグラム上にPBDEsの定量の妨害となるピークは認められなかった.各異性体の検出限界はブランク試験等の結果から検液中濃度0.1ng/mLとした. 本法を駆使して大阪府の長期保存母乳試料(1973,78,83,88,93,98,99,2000年度,25〜29歳初産婦,各年度19〜35件のプール脂肪)中のPBDEs(3〜7臭素化体)濃度を測定し,経年的な汚染状況の変化を調べた.その結果,1973年度の母乳試料を除き,全ての試料から2,2',4,4'-四臭素化ジフェニルエーテル等のPBDEsが検出された.脂肪あたりのPBDEs濃度は1970年代〜80年代に掛けて経年的に上昇(ND〜1.6ppb)し,90年代以降は1〜2ppb前後の濃度で推移した.また,各年度におけるPBDEsの組成比を比較すると1988年度以降3臭素化物の割合が下がり,代わりに5〜6臭素化物の割合が増加傾向にあることが認められた.
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