研究概要 |
これまでに我々は、神経ペプチドY(NPY)の視床下部弓状核でのmRNA発現がエタノール(EtOH)投与4時間後に有意に低下することを明らかにしている。そこで、まずmRNA発現の経時的変化を観察するためEtOH投与24時間後の試料を採取し、弓状核でのNPYmRNA発現を検討した。EtOH投与24時間後も4時間後と同様に発現の低下が認められ、EtOHのNPYmRNA発現に与える作用が比較的持続することが明らかになった。 NPY mRNA発現に対するEtOHおよびアセトアルデヒド(AcH)の影響は、これまで急性投与後の変化しか検討されていない。そこで、EtOHとシアナマイド(CY:アルデヒド脱水素酵素阻害剤)を1日1回、5日連続投与し、最終EtOH投与の1時間後に脳を採取し、視床下部弓状核でのNPYおよびプロオピオメラノコルチン(POMC) mRNA発現をin situハイブリダイゼーションにて検討した。さらに、弓状核のNPY神経細胞の投射先である室傍核での副腎皮質刺激ホルモン放出因子(CRF),アルギニンバゾプレッシン(AVP)のmRNA発現についても検討した。EtOH, CYを単独および併用投与した群とも弓状核でのNPY mRNA発現はコントロールに比較して有意な差がみられなかった。一方、POMC mRNA発現は、EtOH+CY群で有意に減少した。また、室傍核でのCRF mRNA発現はEtOH+CY群でのみ有意に増加し、AVPのmRNA発現はCY単独群のみ有意に減少した。これらのことから、連続投与時にもEtOHの代謝物AcHがNPY mRNAの発現に与える影響は少ないことが示唆された。また、POMC mRNA発現が変化することから、その産物であるベータエンドルフィンの動態変化の可能性が示唆された。今後さらにそれぞれの神経核でのc-fosなど早期発現遺伝子との関連についても検討を進める予定である。
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