研究概要 |
1972〜2001年の30年間における本塾の司法解剖記録(2,592例)より該当事例を検索した。被疑者が65歳以上の高齢者であったものは60件(62例)であった。本年度はこれらの事例についてデーターベースを作成した。なお、被害者が高齢者であった385例については作成途中である。 高齢者が被疑者であった事例については、無理心中の占める割合がかなり高く、業務上過失致死被疑事件を除くと半数弱である。その原因となるのが、被害者例の身体的・精神的問題で、特に女性高齢者が被疑者となった事例では約7割を占めていることが分かった。また被害者の年齢分布を調べてみると、同年代の高齢者が最も多く、国内検挙数全体で被害者となる率が高い40〜50代の占める割合は少なかった。 被疑者・被害者関係からみると、高齢の夫による高齢の妻殺害が最も多いケースであったが、担当医と患者の関係がこれに続き、高齢の医師による医療過誤被疑事件が比較的高率にみられた。また子殺しも予想外に多く、全体としては業務上過失致死被疑事件を除くと、大半が家族内における殺人であり、交通事故以外では被疑者と被害者に面識のない事例は見られなかった。一般に日本においては、家族・親族内殺人の占める割合が高いと言われているが、その傾向がさらに顕著にあらわれており、前述の被害者側の問題点との関係においても、高齢者と殺人を考えていく上で重要なポイントであると思われる。 平成14年度は、これらの点を中心に個々のケースについてさらに詳しく検討するとともに、被疑者の処分結果についての調査を行ない、高齢者が犯罪被疑者となるにいたる背景・状況および問題点を明らかにしたい。また高齢被害者について、データーベースを完成させ、高齢化社会が急速に進む中で犯罪と関わる高齢者に対してどのような対策・サポートが考えられるか、被疑者・被害者の両面から、検討していきたい。
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