ヒトパルボウイルスB19(B19)のNS1蛋白はB19感染細胞の核に局在し、アポトーシス誘導などの細胞障害性に関与すると考えられている。更に、近年ではNS1が赤血球系細胞において炎症性サイトカインの産生に関与していることが知られてきていることから、慢性関節リウマチ(RA)病態で中心的役割を果たすと考えられているTNF_α等のサイトカイン産生に対するNS1の作用に注目されている。NS1の発現は実際に生体内において、関節炎という病理現象とリンクするのであろうか?そこで、我々は、RA患者関節滑膜組織より得られたB19-DNAより、NS1遺伝子を単離し、nativeなNS1プロモーター下に組み込んだプラスミドを作製し、嫌関節炎の遺伝的背景をもつC57BL/6マウスに遺伝子導入を行い、NS1トランスジェニックマウス(NS1Tg/B6)を作製した。導入遺伝子NS1の発現はユビキタスに認められた。NS1Tg/B6では自然経過で関節炎の発症は認められなかったが、typeIIコラーゲン(Cll)の免疫により多発性関節炎(collagen induced arthritis ; CIA)を高頻度に発現した。このことは、元来嫌関節炎の遺伝的背景を保有するC57BL/6マウスがコントロールに用いたCIAの遺伝的背景を保有するDBAマウスのphenotypeに近い性状を示すようになったということであり、B19遺伝子NS1導入により遺伝的制約を越えてCIAの誘発が可能となったという点において特筆すべき出来事であるといえる。また、NS1Tg/B6では、血清中TNF_α濃度が有意に上昇しており、NS1遺伝子の導入によるTNF_α産生亢進状態がin vivoの実験系において証明された。
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