研究概要 |
本研究では同種骨髄移植後の早期治療による遅発性サイトメガロウイルス(CMV)感染症発症の機序および耐性ウイルス出現の機序を解明することを目的としている。同種骨髄移植後には,高頻度にCMVの再活性化が認められ,放置すれば重篤な感染症を惹起するため,早期に再活性化を検出して抗ウイルス剤の投与を開始することが標準的な治療法として確立されつつある。本年度は骨髄移植患者において同手法を用いて,CMVの再活性化の検出を試み,その結果から早期治療を開始する臨床研究を行った。対象は同種骨髄移植後に強力な免疫抑制剤を投与された症例で,評価可能であった39例であった。39例のうち30例においてCMVの再活性化が認められた。real-time PCRが経過中,陰性であった9症例にはCMV感染症の発症はみれておらず,同手法の特異性は高いと判断された。陽性化した30症例では抗ウイルス剤としてganciclovirが投与されたが,3例でCMV感染症の発症がみられた。1例は陽性化した時点ではすでにCMV腸炎を発症していた。1例では一度陽性化し,治療にて陰性化した後に再陽性化して,その時点でCMV網膜炎を発症した。残りの1例は一度は治療にて陰性化したにも関わらず移植後100日以降にCMV胃炎を発症した(遅発性CMV感染症)。これらの症例以外にも一度陰性化したウイルス血症が再陽性化した症例があったが,全例が移植に関連した移植片対宿主病(GVHD)に対して大量ステロイドや抗ヒト胸腺細胞抗体等の強力な免疫抑制剤を投与されており,CMVに対する免疫再構築がこのような治療により遅延することが強く示唆された。本年度の本研究への登録症例中には臨床的に耐性ウイルスを示唆する症例はみられなかった。しかしながら,登録されなかった症例においてCMV再活性化がganciclovir投与によりコントロールが困難となった症例が1例みられた。この1例では長期にganciclovirが投与されており,血漿から増幅したウイルスDNAの解析をおこなった。塩基配列の解析はこれまでの既知の薬剤耐性を誘導する変異部位を検出するように設定されたprimerを用いておこなった。その結果,この症例では耐性変異として報告されているUL97領域のcodon595の変異が確認された。 これらの結果から強力な免疫抑制剤投与による免疫再構築遅延があることで,長期の抗ウイルス剤投与が必要となり,その結果として耐性ウイルスが出現してくる可能性が示唆された。しかしながら,その頻度などはさらに検討を進める必要があり,また耐性ウイルス出現に対する対策も検討しなくてはならない。現在,1ケ月以上のganciclovir投与を受けている症例に関して全例で耐性変異の検索を行う検討を始めており,免疫再構築との関連も含めてさらなる症例の蓄積を行っていく予定である。
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