Fischer等の理論に基づいて開発された分岐鎖アミノ酸(BCAA)高含有アミノ酸製剤の肝疾患患者への投与は、アミノ酸インバランスを是正すると共に、血清アルブミンを増大させ、栄養状態の改善に有用であるとして広く治療に用いられている。しかしながらBCAA製剤投与による血清アルブミン増大に至る分子機構は、現在のところ明らかではない。 本研究では、ガラクトサミン急性肝障害モデルラットをBCAA含量の異なるアミノ酸輸液で維持し、肝臓におけるアルブミン遺伝子発現を検討した。投与輸液中の総アミノ酸に対するBCAAの割合が21.3%の標準輸液と35.5%のBCAA高含有輸液の2種類を完全静脈栄養法で4日間投与し、屠殺後、肝臓を実験に供した。肝臓におけるアルブミンmRNA発現量には、2群間に差は観察されなかった。しかしながら蛋白合成の場であるポリゾーム画分に存在するアルブミンmRNA量を比較したところ、BCAA高含有輸液を投与したラットが正常ラットと同程度のレベルを示したのに対し、標準輸液で維持したラットでは60%程度にまで抑制されていた。これらの結果、肝障害時のBCAA高含有製剤の投与は、アルブミンmRNAの翻訳効率を上昇させるという遺伝子転写後調節によって、血清アルブミンの増大を来していると考えられた。このような転写後調節機構の多くが配列特異的なRNA結合蛋白質を介して行われていることが報告されている。申請者は、in vitro転写系によってアルブミンmRNA全長に相補的なcRNAを合成し、肝臓細胞質画分とインキュベーションして相互作用を検討したところ、アルブミンmRNAと選択的に結合する蛋白質が存在し、本結合とポリゾーム画分へのmRNAの移行割合が平衡していることを見い出した。現在、本蛋白質の同定をすすめると共に、細胞内アミノ酸シグナルの主と考えられているmTORシグナルとの関連についても検討中である。
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