肝疾患患者への分岐鎖アミノ酸(BCAA)高含有アミノ酸製剤の投与は、血漿アミノ酸インバランスを是正し、低アルブミン血症の改善に有効であるとして広く治療に用いられている。しかしながらBCAA製剤投与による血清アルブミン増大に至る分子機構は、現在のところ明らかではない。 本研究において、BCAA製剤の投与が、アルブミンmRNAの翻訳効率を増大させる可能性を示唆してきた。すなわちガラクトサミン肝障害モデルラットをBCAA含量の異なるアミノ酸輸液で維持すると、肝臓におけるアルブミンmRNA発現量には有意な差は観察されないものの、ポリゾーム画分に存在するアルブミンmRNA量がBCAA含量に依存して増大することを見い出した。 近年、BCAAがmTORシグナルを介したp70 S6K1および4E-BP1のリン酸化に伴う翻訳開始反応の増大を誘導することが報告されている。BCAA高含有製剤を投与した障害モデルでは、4E-BP1の有意なリン酸化の亢進が観察された。一方、p70 S6K1には差が観察されなかったことから、肝障害時に特異的な調節機構が存在する可能性が示唆された。現在、詳細な分子機構を検討すると共に、アルブミンmRNA翻訳調節機構との関連を検討中である。 また特異的なmRNA翻訳調節には、配列依存的RNA結合蛋白の関与が示唆される。本研究において、ポリゾーム画分より1Mの塩で抽出される画分に、アルブミンmRNAと選択的に結合する蛋白質が存在することを見い出した。障害肝で本結合活性は顕著な増大を示したが、BCAA製剤の投与により有為に低下した。現在、本RNA結合蛋白の単離精製とともに、機能解析を進めている。
|