研究概要 |
急性膵炎重症化に際して肝動脈血流が増加する可能性があるが,本年度はこの肝血流増加反応が胃十二指腸血流の低下による相対的増加であることを臨床的,疫学的,実験的に検証することを目的とした. 【方法】<臨床的検討1>:発症早期に腹部超音波ドプラ検査を施行しえた重症急性膵炎6例の固有肝動脈血流,門脈血流を解析し,対照群15例と比較検討した.検討項目は肝動脈に関しては最高流速(Vmax),最低流速(Vmin),平均流速(Vmean),Pulsatility Index(PI),Resistive Index(RI),門脈に関してはFlow Volume(FV)とした.<臨床的検討2>:胆膵疾患が疑われ,診断的ERCP検査を施行した患者のうちERCP前後に腹部超音波ドプラ検査を施行しえた入院症例のうち,肝疾患・悪性疾患を除外した34例(61.1±14.6歳,M/F;13/21)を対象とした.ERCP前に関しては,ERCP検査の3日前から検査当日の早朝空腹時(AM6:30〜7:00)にFFT解析を実施した.同時にP型アミラーゼの採血を行った.ERCP後に関しては,ERCP検査の翌日の早朝空腹時(AM6:30〜7:00)にFFT解析を実施した.同時にP型アミラーゼの採血を行った.固有肝動脈の最高流速(Vmax),平均流速(Vmean),Pulsatility Index(PI),Re sistive Index(RI)を測定した.<疫学的検討>:上部消化管イベント(胃十二指腸潰瘍,AGML)を併発した重症急性膵炎24例のイベント発生日を検討した.<実験的検討>:ラットアルギニン急性壊死性膵炎モデルを作成し(対照群は生食を投与),肝・脾・十二指腸の組織血流をlaser-Doppler Flowmeterで経時的に測定し,5秒間の平均血流を最低6回連続測定し平均値としてBFl(Blood Flow Index)とした. 【成績】<臨床的検討1>:重症急性膵炎群の肝動脈Vmax(107.0±12.1cm/s)は対照群(52.5±3.4cm/s)に比し,有意な高値を示した(P=0.0047)同様にVminとVmeanも対照群に比し高値であった(P=0.039,0.026).肝動脈のPI, RI,門脈FVに有意な変動はなかった.<臨床的検討2>:ERCP後翌朝まで腹痛が持続した5例においては,固
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有肝動脈のVmax(ERCP前;44.36±4.62cm/s, ERCP後;66.7±5.43cm/s:P=0.011),Vmean(ERCP前;26.1±3.99cm/s, ERCP後;39.24±5.32cm/s:P=0.017)が,ERCP後において有意な高値をとったが,PI(ERCP前;1.24±0.21,ERCP後;1.2±0.14:P=0.745),RI(ERCP前;0.68±0.04,ERCP後;0.67±0.04:P=0.91)については変動をみとめなかった.腹痛を認めなかった29例においてはいずれのパラメーターも有意な変化を認めなかった〔Vmax(ERCP前;55.94±2.64cm/s, ERCP後;55.5±3.48cm/s:P=0.87),Vmean(ERCP前;31.18±1.82cm/s, ERCP後;31.3±2.43cm/s:P=0.95),PI(ERCP前;1.28±0.06,ERCP後;1.27±0.06:P=0.86),RI(ERCP前;0.69±0.02.ERCP後;0.68±0.01:P=0.53)〕.ERCP検査翌朝のP型アミラーゼ(正常域:26〜71IU/I)が300IU/I以上に上昇した8例における検討では,固有肝動脈のVmax(ERCP前;48.05±3.72cm/s, ERCP後;62.08±3.51cm/s:P=0.024),Vmean(ERCP前;27.75±3.19cm/s, ERCP後;35.8±2.95cm/s:P=0.043)が,ERCP後において有意な高値をとった.PI(ERCP前;1.28±0.14,ERCP後;1.21±0.09:P=0.54),RI(ERCP前;0.7±0.03cm/s, ERCP後;0.68±0.03cm/s:P=0.53)については変動をみとめなかった.P型アミラーゼの上昇を認めなかった26例においてはいずれのパラメーターも有意な変化を認めなかった〔Vmax(ERCP前;56.64±2.97cm/s, ERCP後;55.46±4.02cm/s:P=0.71),Vmean(ERCP前;31.46±1.94cm/s, ERCP後;31.28±2.79cm/s:P=0.93),PI(ERCP前;1.26±0.06,ERCP後;1.27±0.07:P=090),RI(ERCP前;0.68±0.02,ERCP後;0.68±0.02:P=0.76)〕.<疫学的検討>:対象となった重症急性膵炎24例中,重症化した日から前後3日以内での上部消化管イベント発生が14例と大半を占めており,重症化した日のイベント発生が6例と最大であった.<実験的検討>:実験的急性膵炎モデルにおいて,肝組織血流は0.5,1,3日目において有意な上昇を認めた(P=0.0003,0.0004,0.0029).一方,十二指腸組織血流は0.5,1日目に有意な低値を呈した(P=0.0195,P=0.0357).脾組織血流については3日目において低値をとる傾向があるが有意差はえられなかった(P=0.4359). 【結論】重症急性膵炎患者の上部消化管イベント発生の多くは重症化した日周辺に集中する.一方,重症急性膵炎の発症早期に末梢動脈血管抵抗の変動を伴わない肝動脈流速の上昇がみられる.また,ERCP後膵炎が疑われた症例の第1日目においても肝動脈流速の上昇が捉えられた.ラット実験的急性膵炎モデルでも発症早期から極期にかけて肝組織血流の上昇を認めたが,この際十二指腸血流が低下していた.これらの知見より急性膵炎重症化時には上部消化管血流が低下し,これが上部消化管イベントの集中発生の一因となり,間接所見として肝動脈血流の増加が捉えられている可能性があった. 隠す
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