C型肝炎ウイルス(HCV)がどのようなプロセスを経て、宿主を癌化へと導くのかは、全く解明されていない、肝細胞癌に特に関与しているといわれるNS3蛋白質の働きをみるために、DNA組み換え酵素であるCreにより、遺伝子の発現が開始されるCre/lox-Pスイッチング発現システムを用いて、HCV遺伝子の非構造蛋白質部分を組みこんだトランスジェニックマウス(Tgマウス)を作製し、解析を試みた。Creを発現する組み換えアデノウイルスを接種するか、または、Creを発現するマウスと交配させることによりHCV遺伝子を発現させた。 慢性肝炎患者の血清から抽出したHCVを、NS2領域からNS5a領域までをクローニングし、Cre/lox-Pスイッチング発現ユニットに組みこみ、Tgマウスを作成した。トランスジーンの組み込みがあるものは、PCR法により11ライン確認された。サザンブロット解析の結果により正しい大きさと組換えのおこるトランスジーンを持つTgマウスは、9ラインであった。そのうち5ラインは、RT-PCR法によりmRNAが確認された。さらにノーザンプロツト法にて、正しい大きさをもつマウスは、2ライン認められた。mRNAのsequenccをおこない、2ラインとも正しいことが明らかになった。また、蛋白質の産生をみるため、AxCANCreを2回投与後、さらにブースターとしてC14抗原を投与し、経時的に血清中のC14抗体価を測定した。C14抗原投与2週間後にTgマウスは、C14抗体価は2.5以上と陽性を示した。以上よりこのTgマウスは、HCV蛋白質を発現させることと判断した。 このTgマウスにCreを発現する組み換えアデノウイルスを接種を繰り返すこととで、HCV蛋白質の直接的細胞障害機序による肝細胞発癌のメカニズムと、CTLを介しておこる炎症と肝細胞の再生の繰り返しで、発癌が生じるか否かの検討をしている。まだ、HCV遺伝子非構造蛋白質だけでは、肝細胞発症は認められていないが、引き続き、発症に関係する他の因子とを複合して肝細胞発癌のメカニズムを検討中である。
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