昨年度に引き続き病原微生物の病原因子を解明するため、動物実験モデルを用いた感染実験を行った。黄色ブドウ球菌性血行性肺感染モデル(Infect.Immun.65(2):466-471 1997)による解析では、バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(Vancomycin insensitive Staphylococcus aureus : VISA)の病原性としてコアグラーゼが大きな役割を果たすことが明らかになった。 また、このVISA感染モデルには、新規オキサゾリジノン系抗菌薬であるリネゾリドが有効であった(Antimicrob.Agents Chemother.2002;46(10)3288-3291.)。また、リネゾリドはその菌数だけでなく、コアグラーゼ産生も抑制して感染の進展を制御していることが示唆された。 緑膿菌性慢性気道感染症では、ムコイドによって形成されるバイオフィルムや菌体から産生されるエラスターゼが、病原性として重要なことが知られている。 緑膿菌慢性気道感染症モデル(Am.J.Respir.Crit.Care Med.155:337-342 1997.)を用いての解析では、14員環マクロライドがバイオフイルムの破壊に有効であることならびに16員環マクロライドの効果が乏しいことを明らかにした(J.Antimicrob.Chemother.2002;49(5):867-70)。この成績は、in vitroの成績と類似の傾向であり、in vivoの実験系で実証できたことは有意義である。慢性気道感染症における緑膿菌エラスターゼの役割を解析するために、エラスターゼが欠損した緑膿菌の変異株を用いた。この変異株を感染させた肺組織は、炎症細胞浸潤が弱く、また肺内リンパ球数も有意に少なかった。このことは、緑膿菌エラスターゼを制御する治療法の有用性を示唆するものである。
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