従来からリポポリサッカライド(LPS)を気管内に投与することにより惹起される肺の炎症では肺組織のチロシンがニトロ化されることが知られていた。本研究ではラットにLPSを気管内投与した際に生じるチロシンのニトロ化について、LPS投与のみの場合、好中球をなくした場合、NOを吸入させた場合、それぞれの場合に検討し、チロシンのニトロ化がミエロペルオキシダーゼ(MPO)の反応系によるのか、ペルオキシニトライト(PON)の反応系によるのかを明らかにすることを目的とした。誘導型NO合成酵素(iNOS)、ニトロチロシン(MPOとPONとどちらの反応系からも生じる)、クロロチロシン(MPOの反応系のみから生じる)をそれぞれに特異的な抗体をもちいて免疫組織染色し、また、気管支肺胞洗浄液(BALF)中の好中球の数と肺組織のMPO活性を測定した。LPS投与は肺胞壁、肺胞マクロファージ、好中球において、iNOS、ニトロチロシン、クロロチロシンいずれの染色性も亢進させた。サイクロフォスファミドにより白血球数を減少させたり、NO吸入により肺への白血球の集積を抑えても、肺胞マクロファージ内のiNOSの染色性の亢進は抑制されなかった。しかし、肺内にはニトロチロシンもクロロチロシンも産生されていなかった。LPS投与によるチロシンのニトロ化はBALF中の好中球の増加と肺組織中のMPO活性に関連しており、NO吸入はBALF中の好中球数を減らし、チロシンのニトロ化もクロロ化も伴に抑制した。以上より、LPS処理ラットの肺ではMPOの反応系がチロシンのニトロ化に重要であり、炎症の早期のNO吸入は好中球の肺内集積を抑制し、チロシンのニトロ化もクロロ化も減らすことが分かった。
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