研究概要 |
嚢胞性線維症(cystic fibrosis, CF)は日本人を始めとする東洋人種においては稀な疾患であり,臨床上はこれまでわが国で注目されていなかった.欧米でのCF研究では原因遺伝子CFTRの単離同定,遺伝子変異の解析,CFTR蛋白の機能解明,遺伝子治療を含めた新しい治療法の開発など,驚異的な成果があげられた.以上の理由から,欧米に後塵を拝した日本のCF研究においては,まず日本人CF症例におけるCFTR遺伝子の突然変異の解析が急務と考えられた. 平成13,14両年度にかけて厚生労働省難治性膵疾患調査研究班を通じて,諸施設から依頼を受けた家族発症を含むCF症例におけるCFTR変異を詳細に解析した.今年度に解析した症例は血族結婚ではない両親に生まれた25歳女性であった.幼児期より下気道感染を反復し,11歳時に汗中Cl-123mmol/LでCFと診断された.症状は次第に増悪し,23歳時よりHOT導入後,2002年2月に両親からの肺葉をそれぞれ移植する両側の生体肺移植を受けた.原因CFTR遺伝子変異検索として,移植前の末梢血DNAを用い欧米人の87種主要変異をdot blot hybridizationで検索し,さらに全27 exonのPCR-SSCP解析とSanger法による全塩基配列の直接解析を行った.その結果exon 6bでE267V(932A→T), exon 13でT663P(2119A→C)の2種のmissense変異が検出され,これらの複合ヘテロ接合体と診断された.E267V, T663Pは共にこれまで欧米で報告のない新種の変異である. 以上の解析から,日本人CF例は稀ながらも確実に存在し,さらにわが国のCF患者にみられるCFTR遺伝子の変異スペクトラムは,欧米のCF患者とは明らかに様相が異なり多種多様であることが判明しつつある.今後の変異検出スクリーニング体系の構築には,更なる症例の蓄積と引続いての詳細な解析が必要である.
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