筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic Lateral Sclerosis以下ALS)は進行性の神経変性疾患で、その予後はきわめて不良である。近年、家族性ALSにおいてCu/Zn superoxide dismutase(以下Cu/Zn SOD)遺伝子の変異が報告され、それによる運動ニューロン選択的細胞死の機序の解明が待たれている。本研究はCu/Zn SOD遺伝子異常による運動ニューロンの選択的細胞死の機序を解明するために、研究代表者である青木が既に報告している日本人独自の点突然変異をマウスに導入し、ALSの新しいモデルマウスの作成を行う。臨床的に非常に急速な経過をとることALS家系での点突然変異(L84V)と極めて緩徐な経過をとるALS家系の突然変異(H46R)を持つ2種類のトランスジェニックマウスを作成し、その表現型の違いの検討により神経細胞死の機序の解明を目的とする。H46R変異はCu/Zn SOD遺伝子の活性中心に存在している。まずプロモーター領域を含むゲノムCu/Zn SOD遺伝子内に前述の日本人家族性ALS患者における点突然変異の導入を行った。さらに変異遺伝子をマウス受精卵の前核へ微量注入することによりトランスジェニック(Tg)マウスの作成を行った。生まれてきたマウスの尾部からDNAを抽出しサザンブロット法により導入遺伝子を確認した。全生存期間が約180日とほぼ同等の系統でH46R変異とL84V変異を導入したTgマウスを比較すると、発症から死亡までの経過はL84V変異が13.8日とH46R変異の25.7日と比較して急速であった。発現蛋白量はH46R変異のほうが大量であった。L84V変異の方がH46R変異よりも変異Cu/Zn SOD蛋白の神経細胞に対する障害性が高いことが想定されていたが、今回作成したTgマウスにおいてL84VとH46R変異の臨床経過に対する差が再現された。
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