神経変性疾患は病理学的には各疾患に特異的な封入体の形成により特徴づけられる。その構成蛋白はリン酸化されていることが多く、一部では異常なリン酸化が封入体形成の一因と考えられている。パーキンソン病にみられるLewy小体の主要な構成蛋白のひとつがα-synuclein(αS)であるが、我々は、その凝集過程においてリン酸化が関与しているか検討する目的で、まずαSリン酸化酵素の検索をおこなった。In vitroでのリン酸化アッセイではチロシンキナーゼファミリーのc-SrcならびにFynがαSをリン酸化した。細胞に対する(高浸透圧)ストレスによるin vivoにおけるリン酸化実験でも前述の酵素によるリン酸化が認められたが、これらの酵素の上流にPyk2/RAFTKが関与していた。またαSの4つのチロシン残基のうち125位のチロシンがこれらの酵素の基質であることを明らかにした。しかしながら、抗リン酸化チロシン抗体でLewy小体を免疫染色したところ、リン酸化は認められなかった。すなわちαSの125位に関して、そのリン酸化は凝集を促進しないものと考えられた。一方、チロシンニトロ化によるオリゴマー形成については、125位のチロシンをフェニルアラニンに置換した場合著明に抑制されたが、その他のチロシン残基の置換ではオリゴマー形成に変化がみられなかった。以上のことからc-SrcやFynによるαSのリン酸化は異常な凝集を抑制する方向に作用するものと考えられた。さらに我々は、Pyk2/RAFTKのアダプター蛋白をyeast two hybrid法によりスクリーニングし、その中からPyk2/RAFTKによるαSのリン酸化を抑制させるものとして新規蛋白のPRAPを単離し、現在αS凝集体形成能との関連を検索中である。
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