目的)1週間の両側総頸動脈閉塞では、高度な脳組織障害は見られない。しかし、症候学的に視空間認知障害が見られ、エネルギー代謝障害が疑われる。本研究は、cortical spreading depression(CSD)で脳血流低下状態を強調し、MRSを用いてエネルギー代謝障害を観察することを目的とした。 方法)9週齢の雄Wistarラット(14匹)をハロセンにて麻酔し、頚部正中切開後、両側総頸動脈を剖出した。3-0絹糸で永久結紮(BCCA0)した群と、結紮しない群(Sham)に分類した。麻酔離脱後ケージにて飼育し、1週間後に再度ハロセン麻酔し、生理学的パラメーター測定の為、右鼠径動脈をポリエチレンカテーテルにて確保した。頭部皮膚を剥離後、両側の側頭部頭蓋骨に歯科用ドリルを用いて直径約2.5mmのBarr holeを開けた。同部のDuraを剥離し、CSDを誘導するための頭窓を作成した。α-クロラロース(40mg/kg)+ウレタン(400mg/kg)の腹腔内投与後にハロセン麻酔を中止し、ラットを31P-MRS装置に設置した。CSDは0.5M KCl2-3滴を滴下し誘発した。31P-MRSは20分毎に安静時、CSD誘発後20分、40分、60分に測定した。PCr、Piのピークから面積を求め、PCr index(PCr/PCr+Pi)を、Piのケミカルシフトから細胞内pHを算出した。MRS後に脳を4%PFAで潅流固定し、組織変化を観察した。 結果)生理学的パラメーターはBCCAO群とSham群間に有意差はなかった。PCr indexおよび細胞内pHについても両群間で有意差はなかった。組織学的には脳梁の髄鞘染色で、BCCAO群において粗鬆化と思われる変化がみられた。 考察)1週間の両側総頸動脈閉塞では、軽度の髄鞘障害のみで、皮質部エネルギー代謝障害はきたさないことが考察された。
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