本年度、家族性ALSの原因遺伝子の一つであるSOD1の変異タンパクの発現が恒常的に続くと、細胞内のプロテアソーム活性が低下することを初めて明らかにし、胎児マウス脊髄の初代培養系において、運動ニューロンがプロテアソーム機能低下に対して選択的に脆弱であることを見いだした。さらに、変異SOD1タンパクが細胞内分子シャペロンタンパクであるheat shock protein/heat shock cognate protein 70 (Hsp70/Hsc70)によって特異的に結合し、そのATPase活性に依存して変異SOD1-ポリユビキチン複合体の形成を促進することを発見した。またHsp/Hsc70結合タンパクであるCHIP (carboxyl terminus of Hsc70-interacting protein)は変異SOD1タンパクを特異的に認識し、ポリユビキチン-変異SOD1複合体の形成を促進することを発見した。この活性はHsp/Hsp70との結合部位(tetratricopeptide region)、あるいはユビキチン化活性を有すると考えられているUboxドメインを除去した変異型CHIPでは認めなかった。さらにCHIPに対するポリクローナル抗体を作成したところ、ALSのモデルマウスである変異SOD1のトランスジェニックマウスの脊髄運動ニューロンのユビキチンか封入体の一部で、CHIPが染色された。以上の結果は、変異SOD1のコンフォメーション異常がHsp/Hspタンパクによって認識されることがユビキチン複合体の形成に深く関わっており、Hsp/Hsp70結合タンパクであるCHIPがその促進因子として重要であることを示しており、プロテアソーム機能異常に対する運動ニューロンの脆弱性と併せ、病態理解、治療の開発に寄与しうるものと考えられる。
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