イソアスパラギン酸メチル転移酵素(PIMT)欠損マウスは個体発生は正常に起こるが、生後5週以降、神経細胞変性が出現し、マウスは正常の神経機能を維持できずに痙攣発作を呈し、12週までに100%死亡する。また、ホモ接合体マウス脳では、野性型マウス脳に比べ、蛋白質中のイソアスパラギン酸残基(isoAsp)が7〜10倍に増加していることが判明している。これまでの解析から、神経変性とイソアスパラギン酸蓄積の関連が示唆された。本研究では神経変性モデルマウス(PIMT欠損マウス)に蓄積したisoAsp含有タンパク質の同定を試みた。 シナプトソームの主要なリン酸化蛋白質であるシナプシン1はin vitroの解析からisoAsp修飾を受けやすいこと、シナプシン1欠損マウスは痙撃発作を呈しやすい表現型を示すこと、PIMT欠損マウス脳シナプトソーム画分のisoAsp蓄積が30倍高いことが判明している。PIMT欠損マウス脳抽出物をアミノ末端領域を認識する抗シナプシン1モノクローナル抗体および抗シナプシン1抗血清で解析したところ、モノクローナル抗体の反応性だけがPIMT欠損マウス脳において、著しく低下することを発見した。この反応性の低下はシナプシン1の量的低下を伴なっていなかった。PIMT欠損マウス脳からシナプシン1蛋白質を精製し、isoAsp修飾の程度を調べたところ、シナプシン1、1mol当たり0.5molのisoAsp修飾が生じていることが判明した。この修飾量は正常マウスシナプシン1の36倍であった。これらの結果から、PIMT欠損マウス脳ではシナプシン1の過剰なisoAsp蓄積がタンパク質の構造変化を生じ、シナプス機能に重大な影響を与えた結果、神経変性を引き起こし、痙攣発作で死亡すると予想された。
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