本研究の目的は、心肥大・心不全におけるプロスタノイドの役割を受容体欠損マウスを用いて解明することである。本研究によって、以下のことを明らかにした。 1.心臓におけるプロスタノイド受容体の発現をRT-PCRにより解析した。成獣マウス心室筋では、8種類のプロスタノイド受容体の中で、EP_2、EP_3、EP_4、FP、IP、TPの発現を確認した。さらに、心室から単離した成獣および胎仔心筋細胞では、EP_2を除いた5種類の発現を確認した。また、胎仔非心筋細胞では、成獣心室と同様に6種類の受容体が発現していることを明らかにした。 2.トロンボキサン(TX)A_2は、非心筋細胞の増殖を促進した。この作用は、TP欠損マウスでは消失した。よって、TXA_2は、TPを介して、非心筋細胞の増殖を促進することが明らかとなった。 3.急性心不全のモデルとして、虚血-再灌流障害のin vivoとex vivoの実験を行った。in vivoの実験では、左冠動脈を1時間結紮し、その後、再灌流を24時間行い、梗塞サイズを測定した。この結果、心筋梗塞サイズは野生型と比較してIP欠損マウスにおいて著しい増加を認めた。つまり、心筋の虚血-再灌流障害に対して、内因性PGI_2はIPを介して心筋保護に働くことを初めて明らかにした。ex vivoの実験では、摘出灌流心への灌流液の供給を遮断し、その後再灌流を行い、心機能の変化を解析した。その結果、野生型マウスに比較し、IP欠損マウスでは、再灌流時のdeveloped tensionの回復が抑制され、CK遊出量は高値を、ATP含量は低値を示した。つまり、内因性PGI_2の心筋保護作用には、IPを介した心臓への直接作用も含まれていることが初めて明らかとなった。
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