酸化LDL受容体LOX-1の機能解析と動脈硬化遺伝子治療への応用ということで研究を行ってきた。まず、動脈硬化、特に脂質と関連の深い粥状動脈硬化では、酸化、変性を受けたLDLがその発生機序に大きな役割を果たしていることが明らかとなっており、血管の最も内側、直接血液に接触する血管内皮に存在する酸化LDLの受容体が、日本でクローニングされ、LOX-1と命名された。この受容体を介して、酸化LDLが動脈硬化を促進させていることが報告されてきた。ゆえに、この受容体の発現亢進機序などを解明することにより、その発現や発現誘導を抑制することにより、動脈硬化の抑制が可能になるのではと考えられる。そこで、我々は、in vitroの実験として、培養ウシ大動脈血管内皮細胞を用いて、どのような刺激で、LOX-1が誘導されるか、また、何によってその誘導が抑制されるかなどを検討してきたが、核内転写因子の一種であるペルオキシソーム増殖剤応答性受容体γのリガンドやその活性化剤が、TNF-αやPMAなどによるLOX-1の誘導を抑制することを見出した。他の報告でも、この薬剤が動脈硬化に対して抑制的に働いていることを示唆されている。しかしながら、この薬剤は、実際の臨床の場では、インスリン抵抗性改善薬として、2型糖尿病患者に用いられており、動脈硬化に効果があったとしてもどのような機序かは判断が困難である。また、初めての転写因子に作用するこのチアゾリン誘導体は、副作用も強く、先に販売された、troglitazoneは販売中止となっている。しかしながら、全身投与では副作用が強くて使えない薬剤でも、近年発達しつつある遺伝子治療の技術の応用やナノテクノロジーを用いた薬剤のデリバリーなどを用いれば、局所的な薬剤の投与が可能となりうると思われる。今後、さらにこの転写因子のノックアウトマウスやLOX-1のトランスジェニックマウス、ノックアウトマウスなどを用いて研究を進める予定である。
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