動脈圧反射系は血圧入力から遠心性交感神経活動までの中枢弓と、遠心性交感神経活動から血圧応答までの末梢弓に分けて記述できる。血圧調節の高速性や安定性を評価する上で、中枢弓及び末梢弓の過渡応答を定量化し、モデル化することが重要である。これまで、動脈圧反射系の過渡応答は正常血圧領域については詳しく研究されてきたが、高血圧及び低血圧領域での過渡応答は不明であったので、すべての血圧レベルにおける動脈圧反射の機能を1つのモデルで包括的に記述することが不可能であった。そこで、本研究では麻酔ウサギにおいて、動脈圧受容器にかける平均圧を70、100、130、160mmHgに変化させた条件下で、2値白色雑音入力を行い、動脈圧反射の中枢弓及び末梢弓の伝達関数を推定した。その結果、中枢弓の伝達関数において、入力平均圧が70及び160mmHgの状態(0.61±0.26及び0.60±0.25)では、100及び130mmHgの状態(1.32±0.42及び1.36±0.45)に比べて、低周波数領域のゲインが有意に低下した。また、入力平均圧が70及び160mmHgの状態(17.6±3.5及び14.1±4.2dB/decade)では、100及び130mmHgの状態(8.0±4.4及び7.4±5.5dB/decade)に比べて、微分特性が有意に増強した。このような現象は、微分要素に続いてS字曲線状の非線形要素を入れた数学的モデルを考えるとうまく説明できた。以上のことから、動脈圧反射の中枢弓は微分特性及び非線形特性で簡単にモデル化でき、種々の血圧異常をこのモデルを使って定量的に記述することが、血圧異常の病態の解明や治療法の開発に役立つと考えられる。
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