ヒト好塩基球におけるfocal adhesion kinaseの調節機構およびその役割に関して詳細は不明である。平成13年度に引き続き14年度で好塩基球におけるIgE受容体からのfocal adhesion kinase調節機構とその役割について検討した。平成13年度にヒト好塩基球におけるfocal adhesion kinaseであるFAKやPyk2の発現を検討し、FAKの発現はないが、Pyk2の有意な発現を示唆する結果を示した。Pyk2の活性化はそのリン酸化に依存することにより、好塩基球を活性化する幾つかの刺激でのPyk2のチロシンリン酸化を検討した。好塩基球の細胞浮遊液を抗IgE抗体、FMLP、ionomycin、IL-3、PMAで刺激後、細胞ペレットを溶解し、抗Pyk2抗体で免疫沈降を行い、抗phosphotyrosine抗体(4G10)によるイムノブロット法を行った。結果は(1)抗IgE抗体、FMLP、ionomycin、PMA刺激で有意なチロシンリン酸化を認めた。一方、IL-3では有意なチロシンリン酸化を認めなかった。抗IgE抗体、FMLP、ionomycin、PMAは単独の刺激で好塩基球の脱顆粒を誘導する。一方、IL-3単独の刺激では脱顆粒を誘導できない。これらのことより、好塩基球の脱顆粒においてPyk2の活性化が関与していることが示唆された。(2)IgE受容体を介した刺激で役割を担っていると考えられる酵素を同定するために酵素選択的阻害剤の実験を行った。PI-3kinase選択的阻害剤(LY294002)、src-family kinase選択的阻害剤(PP1)、PKC選択的阻害剤(Ro31-8820)を用いて薬理学的検討を行った。結果はLy294002及びPP1で抗IgE抗体で誘導されるPyk2のチロシンリン酸化は抑制されたが、Ro31-8820では抑制されなかった。同様に、抗IgE抗体で誘導される脱顆粒もLY294002及びPP1で抑制されたが、Ro31-8820では抑制されなかった。(3)IL-3単独では脱顆粒を誘導しないがIL-3で前処置することにより抗IgE抗体で誘導される脱顆粒は増幅される。同様に、IL-3単独ではPyk2のチロシンリン酸化は誘導できないが、IL-3で前処置することにより、抗IgE抗体で誘導されるPyk2のチロシンリン酸化は増幅された。これらのことより、好塩基球の脱顆粒においてPyk2が関与していると考えられ、抗IgE抗体刺激ではsrc-family kinaseであるLynやPI-3 kinaseより下流で脱顆粒を調節していることが示唆された。
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