毛周期を形成する発振装置は皮膚に存在すると考えられている。また、視交叉上核の概日リズムは毛周期の発振器ではないが、毛周期を修飾する可能性があると考えられてきた。しかしながら、毛周期の発振器の正体、あるいは毛周期に対する中枢および末梢の概日リズムの関与については、殆ど解明されていない。そこで、ヌードマウスを用いて、今年度は1)概日リズムの変化が毛周期に与える影響、2)視交叉上核の破壊による概日リズムの消失が毛周期に及ぼす影響を検討した。 1)明暗周期の変化により、概日リズムを22・24・26・28時間に変化させると、毛周期も概日リズムと同様に延長した。また、22および28時間周期では、頭部において、両眼を結んだ線より前部と後部で毛周期の脱同調が生じた。 2)視交叉上核を破壊し、概日リズムを消失させた後、1)と同様に明暗周期を変化させたところ、明暗周期の延長と共に、毛周期の延長が認められた。しかしながら、毛周期の脱同調は認められなかった。 これらの結果より、以下のことが示唆された。 1)視交叉上核の概日リズムは各部の毛周期の同調に影響を与えている。 2)明暗周期による光刺激を直接皮膚で受容し、皮膚の概日リズムを変化させることにより、毛周期が制御されている可能性がある。 以上の結果をさらに詳細に検討するため、次年度は以下の3つの研究を行う。 1)マウスの視神経を切断し、明暗周期と視交叉上核の概日リズムを解離させることにより、どちらのリズムに毛周期が従うか調べる。 2)視神経の切断と視交叉上核の破壊を同時に行い、視覚経路を介した刺激および中枢の概日リズムを消失させ、毛周期を観察し、直接皮膚を介して光刺激が毛周期に影響を与えているか調べる。 3)上記1)2)の条件下で皮膚を採取し、Period遺伝子の発現を観察し、皮膚の概日リズムと毛周期および中枢の概日リズムとの関係を調べる。
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