研究概要 |
放射線感受性の低い癌細胞は、腫瘍抑制遺伝子であるp53が変異あるいは欠損していることが知られている。このような癌細胞に正常なp53遺伝子を導入した後、放射線照射を行えば、癌放射線治療の効率が向上するものと考えられる。本研究では、コレステロール誘導体を素材とした正電荷リポソームによる安全で効率のよい癌細胞への遺伝子導入技術を利用し、放射線感受性の低い癌細胞に対する放射線治療技術の改善を目的としている。p53の変異が確認されているヒト膵臓癌細胞(ASPC1)、ヒト食道癌細胞(TE1)、ヒト骨肉腫細胞(NOS1)等の各種培養細胞の放射線感受性を確認した。放射線照射装置には、Co60-γ線遠隔照射装置を用いた。1x10^6個の細胞に照射線量が0,0.5,1.0,2.0,4.0,6.0,8.0,10.0,20.0,30.0 Gyとなるように照射し、細胞の生存率をトリパンブルー染色法を用いて測定した。この時、p53の変異が認められていない癌細胞であるヒト子宮頚癌細胞(HeLa)も同様に測定した。その結果、正常p53遺伝子を持つHeLa細胞では、線量依存的に生存率が減少していくのが確認されたが、p53に変異が認められるASPC1、TE1、NOS1に関しては、線量を30 Gyまで増加させても顕著な変化は見られなかった。また、この結果から以後の実験では、照射線量は20 Gyを採用することにした。次に、HeLaとASPC1を用いて遺伝子導入条件を決定した。その結果、1x10^6個の細胞に対してプラスミドDNAを5μg、導入時間を4時間に設定した時、導入後40時間で導入遺伝子の発現率が最も高くなることがわかった。現在、正常p53遺伝子を各種培養細胞に導入した後、放射線照射した時の細胞生存率の経時変化を測定している。今後は、この系を用いて、線量、照射回数(一回照射、分割照射)、放射線増感剤の有無について検討する予定である。
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