中枢に存在するニコチン性アセチルコリンレセプター(nAChR)は、記憶・学習・認知などの脳神経機能に関与すると共に、抗不安作用や鎮痛効果、神経保護効果など多様な性質を有することが知られている。これまで、アルツハイマー病などの脳神経疾患においてnAChRの顕著な減少が報告され、nAChRを対象とした様々な検討が行われてきたが、その中枢での詳細な役割については明らかとなっていない。そこで、本研究では、α_4β_2サブタイプに高い親和性、選択性を有する5-iodo-3-(2-(S)-azetidinyl-methoxy)pyridine(5IA)を合成し、記憶・学習障害を主な症状とするアルツハイマー病(AD)の動物モデルを作製して、記憶・学習機能への脳内nAChRの関与について検討することを計画した。ADでは発症早期におけるマイネルト核の破壊、およびこれを起点として大脳皮質へ投射するコリン作動性神経機能の低下が報告されていることから、ラットにおいてマイネルト核に相当するnucleus basalis magnocellularis(NBM)を破壊し、投射先である前頭葉での神経機能変化について検討を行った。その結果、NBM破壊ラットにおいて、破壊側で局所脳糖代謝量が一時的に減少したが、その変化は時間と共に回復した。また、ムスカリン性アセチルコリンレセプター(mAChR)密度は低下する傾向を示したが、逆に増加する個体もあり、その変化は一定しなかった。これらに対し、nAChR密度はNBM破壊1週間後、1ヶ月後ともに低下しており、記憶・学習障害への脳内nAChRの関与が示唆された。さらに、同様の結果は[^<125>I]5IAを用いたex vivo autoradiographyにおいても得られており、[^<123>I]5IAを用いるnAChRの非侵襲的なインビボイメージングの可能性が示された。
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